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地がきによる天然更新

地がきによる天然更新補助

天然林のウダイカンバは数百年も生きることがあり、目の詰まった芯の赤い大径木は「マカバ」と呼んで極めて高値で取引されます。北海道では、1910年代に大規模な山火事が多発しましたが、富良野の北海道演習林でも1500haもの範囲でウダイカンバが優占する二次林(再生林と呼ばれている)が存在しています。北海道演習林では、天の恵みともいえる、このウダイカンバ再生林で密度管理を主としたきめの細かい施業を行っています。しかし、ウダイカンバは先駆樹種であるため、再生林の近くに親木はたくさんあるにもかかわらず、再生林内にはその実生や稚樹はめったに見られません。つまり、放置しておくと、再生林は一代限りというわけです。

そこで、再生林を人為的に再生させて再びウダイカンバ林を作るという試験をやってみました。再生林など直径が細く芯が白っぽいものは「マカバ」ではなく、「メジロカバ」と呼ばれます。しかし、メジロカバも決して馬鹿にしたものでなく、針葉樹や他の広葉樹よりも高い価格で取引されています。特に、着色技術が進んだ昨今では、フローリングなどにも使いやすいようです。「再生林再生」と名付けたこの計画は、70年ごとにメジロカバ生産を継続し続けるというのが、技術職員のみんなと話をした中で浮かんだアイデアです。

具体的には、再生林の一部を小面積で皆伐し、ブルドーザやバックホウなどの重機を用いてササの根系ごと地表を剥ぎ取る「地がき」を行い、側方天然下種更新でウダイカンバを更新させようとしたのです。このアイデアは初めてではなく(再生林でやったのは初めてですが)、北海道演習林では大規模な地がき試験地(5501~5512)がありました。こちらを改めて調べたところ、高標高ではダケカンバとエゾマツが、低標高ではウダイカンバがよく更新していることが分かりました(Goto et al. 2010 JFR)。

さて、肝心の再生林再生計画を「焼き松峠」というところで実施しました。実際に伐採して、地がきした後は、思い通りにウダイカンバが更新してくれるか、祈るような気持ちだったのを覚えています。その後4年間にわたり、岐阜大学の津田智さんと植生と実生更新の調査を行いましたが、幸い、ウダイカンバだけでなく、イタヤカエデ、ヤチダモ、シナノキ、ハリギリなど多様な樹種が更新しました(後藤・津田2002日林誌)。しかし、その後、ササも想像以上に力強く復活し、また、タラノキがぐんぐん伸びて、ぱっと見にはササっ原にタラノキが生えている畑に見えなくもありません。

その後、別の場所(75林班)で大小2つずつの地がき試験地を作ったのですが、こちらは焼き松峠の結果とはまた違い、スゲやフキが優占したりして、思い通りにウダイカンバが更新することはありませんでした。ちなみに、75林班では、シカの影響を排除するためにシカ柵を設置するということを試みました。しかし、雪のある斜面でシカ柵を設置するのは予想以上に難しいことでした。一度は20×20mと広めの柵を設置しましたが、雪の重さに耐えかねて、見事に破壊されました。次に、3×3mという小さい策を6つずつ設置したのですが、これもなんと次の年には崩れてしまい、あえなく失敗。試験地を設定するとき、獣害が生じてしまうと、しばしば試験自体が成り立たなくなってしまうわけですが、今回はそれ以前の問題で完璧なる敗北でした。

地がき更新問題は、まだまだ長い目で見ていかないといけない研究です。焼き松峠や75林班の試験地が成功なのか失敗なのかが決まるのは10年後や、あるいは20年後なのかもしれません。ササに覆われている中に隠れるようにして育っているウダイカンバの稚樹たちをみると、頑張ってウダイカンバ林になってくれと声をかけたくなります。

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