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林木育種の研究

林木の育種に関する研究

クローン識別

「DNA鑑定」という言葉は、犯罪捜査のニュースなどでもよく使われていますが、林木では、さし木や接ぎ木によって増やした品種やクローンの鑑定でも応用されています。私が最初に使ったのはRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)マーカーというもので、DNAの一部をPCRで増幅した断片をバンドパターンとして指紋のようにして鑑定する方法です。再現性が低いバンドがあるという理由で今ではほとんど使われていませんが、プライマーをデザインする必要がなく、PCRと電気泳動だけで結果が得られるという点では有難いマーカーでした。

1995年に福岡県の森林林業技術センターに入ってから、ハゼノキ品種(後藤ら1997日林誌)、スギさし木品種(後藤ら1998日林誌)、マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ採種園を構成する16クローン(Goto et al. 1998 JFR)のクローン鑑定技術を確立しました。この鑑定技術を用いれば、採種園や採穂園が植栽図面通りに正しく植えられているかをチェックすることができます。実際に、ある採種園を構成する全200個体について鑑定した結果、2割近くが配置図と一致せず、人為的ミスが起こっていることが分かりました(川内・後藤1999日林誌)。

採種園を構成する全個体からDNAを抽出するには、お金も時間も労力もかかります。そこで、同じ名前がついたクローンの複数個体を一度にまとめてDNA抽出・PCRをする手法(バルク法)を確立しました。同じクローンの針葉4-5個体を混合すると、混入があればバンドが重ね合わされたようなパターンになり、個別に分析するときの20%程度の労力でできることが分かりました(Goto et al. 2001 Silvae Genet)。バルク法については、マーカーをマイクロサイト(Microsatellite)マーカーに変えて、熊本県のスギ品種シャカインの採穂園で試したところ、1000個体以上の採穂園の品種鑑定に成功しました(後藤・松井2015日森林誌)。

採種園の交配実態

福岡県の抵抗性クロマツ採種園では、家系別に種子を採取して、マツノザイセンチュウを接種するために育成していたクロマツ実生苗がありました。マツノザイセンチュウを接種する前に針葉を採取してDNAを抽出し、花粉親を何とか同定すれば、どんな組合せで抵抗性が強いのかが分かるのではないかと考えました。

抵抗性クロマツ16家系について、RAPDマーカーで花粉親を調べた結果、全ての構成クローンが等しく寄与するのが理想とされるクローン採種園ですが、実は上位3クローンが全体の70-80%の花粉親になっており、採種園の交配実態は極端に偏っているという結果でした(Goto et al. 2002 Can J For Res)。また、この花粉親の識別結果と苗木へのマツノザイセンチュウ接種結果を対応させたところ、花粉親の影響も母親と同等で影響が小さくないことが分かりました。(後藤ら2002日林誌)。マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ採種園の遺伝子管理として、これらの結果をまとめたものが博士論文となりました。

その後、新潟大学の森口喜成くん、育種センターの高橋誠さんと採種園の遺伝的管理に関する総説を書きました(森口ら2005日林誌)。交配実態は極めて偏っていること、自殖は5-10%だが、育苗過程で自然に減少するので、得られた苗木の品質には影響しにくいこと、花粉汚染が世界中で深刻なレベルで起こっていることが世界的に共通していることが分かりました。

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